大学院教育
東京大学原子核科学研究センター (CNS) では、原子核からクォークに至るハドロン多体系の物理を研究しています。加速器技術の発展に伴い、我々は従来到達し得なかった領域に踏み込む道具をこの手に得ることになりました。CNS と強い研究連携体制にある理化学研究所の RI ビームファクトリー、とりわけ東大CNSの建設した、SHARAQ、CRIBという2つの大型実験装置はその代表であり、さらに低速エキゾティックRIビームを生み出すためのOEDO計画が進行中です。 CNS は 8 人の教員(教授 2, 准教授 3, 講師 1, 助教 2)と大学院生・ポスドクを中心としたメンバーで、これらの巨大加速器施設における最先端研究を推進しています。各研究室の紹介はこちらをご覧ください。また、大学院生への進学を希望される方は理学系研究科の進学ガイダンス、および入学案内も合わせてご確認ください。
受け入れ研究室リスト
原子核は様々な量子現象の舞台です。一粒子運動と集団運動の拮抗、自発的対称性の破れ(回転対称性、反転対称性、ゲージ対称性…)、コヒーレンス、量子もつれと干渉現象…。原子核の実験技術は飛躍的な発展のさなかにあります。私たちは最先端のガンマ線トラッキング検出器と希少原子核ビームを組み合わせて原子核の種類や励起エネルギー、さまざまな量子数を変化させることで原子核に現れるさまざまな量子構造を研究しています。
一例として回転対称性や反転対称性を自発的にやぶった状態の探索があります。原子核は中性子と陽子(あわせて核子)が自己束縛する孤立した有限多体系であるため、太陽系における太陽のような中心を持たず、その形状をその構成要素である核子たち自身で「民主的に」決めることになります。回転対称な空間に浮かぶこの系は古典的には回転対称な形状、すなわち球形をとりますが、原子核の場合、量子性のために多くの場合変形していることが分かっています。これは量子系における自発的対称性の破れの典型例で、ゲージ空間における対称性の破れと理解できる物性における超伝導現象など、さまざまなスケールの量子系とのつながりがあります。原子核の変形はよく研究されていますが、これまでに実験で知られているのは主として軸対称四重極変形、すなわち、ラグビーボール型変形(プロレート変形)やミカン型変形(オブレート変形)で、理論的にはもっと変わった変形も多数予言されています。例えば、非軸対称(三軸非対称)の四重極変形や、空間反転対称性すら破る洋梨形変形やテトラポット型変形(八重極変形)、軸対称四重極変形のなかでも非常に変形度の大きなハイパー変形などがあげられます。こうした形状は中性子数と陽子数の関数として変化していきますが、原子核科学研究センターがRIビームファクトリーにもつ OEDO/SHARAQ ビームラインで広い領域の中性子数と陽子数の原子核を生成し、ガンマ線トラッキング検出器で測定することを目指しています。
            - 光格子干渉計によるフランシウム永久電気双極子能率(EDM)探索
 - 原子核媒質中における弱い相互作用の伝搬機構(anapole moment)
 - レーザー冷却極性分子(Fr-Sr)生成の開発
 
            現在存在が確認されている原子核は3000個あり、理論では更に3000個存在すると言われています。 これらの原子核の殆どは放射性同位体で、強い相互作用では束縛しますが、弱い相互作用では 崩壊します。世界中で10を超えるこれら放射性同位体を研究する施設が稼動しており、熾烈な競争状態にあります。 我々は、世界でもユニークな実験設備である低速化装置OEDO+磁気分析器SHARAQのホスト研究室として、 世界中のユーザーと共に有限量子多体系での核子の自己組織化機構の解明を目指して、日々研究を 推進しています。
特に、変形共存、エキゾチック変形、BEC-BCSクロスオーバー現象といった、近年明らかになってきた新奇 現象を実験的に調べています。また、中性子過剰な原子核の中性子捕獲反応断面積を評価することで、 重い元素の起源天体について微視的に調べています。これら研究を可能にする、γ線検出器、スト リップ型のシリコン半導体検出器を用いた反跳粒子検出器、薄型ダイヤモンド検出器の開発も進めています。
            原子核はたかだか100個程度の核子からなる少数粒子系で、陽子・中性子の組み合わせで生じる様々な様態が研究対象になってきました。 有限のシステムなので、表面や形といった巨視的な属性があります。 原子核を原子核散乱を通して外から「突っつく」ことで回転・振動運動を引き起こすことができます。 この現象は原子核集団励起と呼ばれ、原子核の堅さをはじめとした基本的な性質を反映します。 エキゾチック核反応グループでは「突っつき」に対する原子核の応答を調べることで原子核の新しい様相、集団性を生み出す相互作用の研究を進めています。
RIBF の不安定核ビームによって、散乱実験に用いられてこなかったアンバランスな原子核を対象にすることができるようになりました。 これらの原子核について、従来からあるスピン・アイソスピン応答の研究を行うのが研究室の主軸です。 このために、PANDORA をはじめとした中性子検出器の開発を進めました。 時に、スピン異性体など、新しい不安定核ビームの開発を行います。 一方で、不安定核ビームで別の原子核を「突っつく」ことにより、新しい共鳴状態を探索します。 大きな角運動量をもったビームを使えば、高スピン状態が効率よく作れるかもしれない、などの素朴なアイデアを実地で試せるような恵まれた時代を実験核物理学は迎えています。
            
            宇宙において星が輝き、超新星などの爆発現象が起こるメカニズムは、原子の中の小さな原子核の働きによって説明できます。 大きな宇宙に浮かぶ天体と、微小な原子核を結びつける研究分野が「宇宙核物理」です。 我々の身の周りにある元素が宇宙の歴史の中でどのように合成されたか、また宇宙の星がどのように燃焼し、時に爆発するか、という疑問に答えるには、宇宙核物理の力が必要です。
山口研究室/ 宇宙核物理グループでは、爆発天体温度の不安定核ビームを生成できるユニークな装置「CRIB」を使って、 世界の研究者と共に、宇宙で最初の元素合成、ビッグバン元素合成から、 宇宙で頻繁に起こる爆発現象、X線バーストに至るまで、様々な宇宙の謎の解明に取り組んでいます。
世界的にも宇宙核物理は核物理研究の一大テーマとなっており、山口研究室は日本に軸を置きながら、 きわめて国際的な研究環境の中で、ユニークな研究を推進しています。
            
          基本的対称性の破れの多体効果・増幅効果は、DNAのらせん構造は右巻きのみ存在していることや、生物がひつようとするアミノ酸がL型のみであることなど、生命の期限にも関わる可能性があります。 その解明の鍵となるのは、重元素の原子核媒質中で対称性の破れが増幅する効果だと考えています。 重い中性原子と重いイオンを同一空間上に捕獲する技術を確立し、それらを同時に精密量子測定することによってレプトンとクォークの基本的対称性の破れの期限に迫り、自然界において素粒子から原子、複合粒子にいたる過程で対称性の破れが発現する仕組みを紐解いていきます。
          ビッグバン直後の初期宇宙では、どのようにして粒子や原子核が生まれたのでしょうか。私は、国内外の加速器実験を通じて、初期宇宙に存在したと考えられるクォーク・グルーオン・プラズマを実験的に再現し、その性質を解明することで、強い相互作用が支配する極限状態の物質を理解することを目指しています。特に、共鳴粒子の生成と崩壊、軽い(反)原子核の形成過程を精密に測定することで、ハドロン物理と原子核物理をつなぐ研究を推進しています。これらの研究は、原子核内部における集団運動や変形といった核構造の理解にも新たな視点を与えるものです。最終的には、物質の形成メカニズムと、強い相互作用によって生み出される多様な物質状態を実験的に再構築することを目指しています。
            原子核は、陽子と中性子という二種類の粒子が、数個から数百個集まってできた量子多体系です。 それぞれの粒子数を変えることで、形状や量子構造、崩壊の仕方など、その性質が大きく変化することが知られています。 しかし、この多様な原子核の性質を統一的に記述できる理論は、まだ確立されていません。
私たちは、地球上には存在しない不安定な原子核の性質を実験的に調べることで、原子核という量子多体系の普遍的な理解を目指しています。 これらの研究は、単なる原子核物理の探究にとどまらず、中性子星など極限天体の構造解明や、物質・反物質の非対称性の起源を探る研究にもつながる重要な意義を持っています。 たとえば、反転対称性が破れた形状をもつ特定の不安定核は、宇宙における対称性の破れを検証する新しい手法に応用され得ます。 また、不安定原子核の崩壊様式を明らかにすることは、太陽系を構成する元素がどこで合成され、どのように安定核へと変化してきたかを理解する上でも重要です。
私たちのグループでは、理化学研究所RIBFおよびOEDOをはじめとする国内外の最先端不安定核生成施設で実験を行い、次世代検出器の開発や大規模データ解析環境の構築など、最先端の実験技術開拓にも取り組んでいます。 学生は、実験提案から装置開発、データ解析、成果発表に至るまで、すべての段階に主体的に関わることができ、国際共同研究に参加する機会も豊富です。 世界最先端の実験施設を活用し、量子多体系・核構造・宇宙物理・素粒子物理の架け橋となる研究を共に切り拓いていきましょう。
大学院進学ガイダンス
理研RIビームファクトリー原子核科学研究センター見学ツアー
最先端の原子核物理研究の拠点である理化学研究所RIビームファクトリーや原子核科学研究センターの見学・説明会を行います。
2025年 5月10日(土) 13時頃~
理化学研究所 (埼玉県和光市広沢2-1)
参加登録フォーム
物理学専攻 入試ガイダンス(オンライン)
2025年 5月31日(土) 10:00-15:30
原子核科学研究センターの属するA2サブコースの紹介が含まれます。
詳細は、近日中に物理学専攻のページに掲載されます。うち、13:30-15:30 には、原子核科学研究センター進学相談会をハイブリッドにて開催します。
zoom接続情報など詳細は後日追記します。
物理学専攻A2サブコース合同ガイダンス
2025年 6月上旬に開催します。詳細は決定次第追記します。
研究所ガイダンス
2025年 6月13日(金) 16:30-18:00 理学部1号館233
原子核科学研究センターの各研究室の紹介を含むガイダンスを行います。
CNS和光施設/理化学研究所RIBF見学会
2025年 6月14日(土) 午後に進学生向けの和光施設見学会を行う予定です。
見学は随時受け付けています。教員にご連絡ください。
ガイダンス担当:郡司(gunji@cns.s.u-tokyo.ac.jp)