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教授から学生のみなさんにメッセージ

学生のみなさんへ

原子核物理は今、新しい局面に入ってきています。安定には存在しない原子核を加速器を用いて人工的に作り、それが壊れる前に調べる手法の開発がすすみ、原子核物理の「Play Ground」が飛躍的に拡大する時期に来ました。日本では、理化学研究所(理研)で2007年 RIビームファクトリー(RIBF)が稼動を始め、たとえば、人類がまだ確認したことのない原子核(同位元素)が次々に見つかってきました。理研のRIBFは、これから少なくとも5年間はその性能において世界のトップを走りますが、東大原子核科学研究センター(CNS)は理研内に建屋と大型実験装置を持ち、この新しい物理を主導的に展開するセンターです。

極限核構造グループは、インビーム核分光という手法で、安定核では見られないエキゾチックな性質を解明し、原子核物理学の常識を変えることを目指した研究を行っています。

新しい実験科学は新しい実験技術の開発から生まれます。わたしたちは光速の30%以上の速さで運動している原子核からのガンマ線のドップラー効果を高精度で補正できる高分解能ガンマ線検出器(GRAPE)を開発し、これまでに比べて、10倍以上鮮明にガンマ線を分析することに成功しました。また、散乱粒子を高分解能で測定し、原子核の状態を鮮明に識別するための磁気分析装置SHARAQ の開発しました。2014年から、新しい手法を用いてRIビームを減速するOEDOプロジェクトをスタートさせ、エキゾチック原子核研究の新たな展開を目指しています。

このような新しい展開を迎えている原子核の世界(フェムトワールド)の研究に参加しませんか。

「1つ、2つ、... たくさん」×「1つ、2つ、... たくさん」

原子核は、陽子と中性子が有限個あつまってできた「強い相互作用をする2種類のフェルミ粒子の有限量子多体系」です。まず有限個のフェルミ粒子というのがミソです。縮退度の異なるとびとびの量子状態が存在し、同じ状態には1つのフェルミ粒子しか入れないので、フェルミ粒子が何個あるかによって、その性質が異なります。(元素の性質が、電子の個数によって決まるのと同じ)たとえば、自然界に存在する安定な原子核では、 2,8,20,28,50,82,126,...という個数のとき原子核は特に安定で、これらを魔法数とよんでいます。陽子あるいは中性子が魔法数の原子核は丸く、その中間の原子核は変形しやすいということが知られています。安定な原子核は陽子数と中性子数がバランスしているため、一方が魔法数なら他方は同じ魔法数に近くなっていますが、このバランスを崩すとどうなるでしょう?陽子群は変形しやすく、中性子群は丸くなりやすい個数になったときどんなことが起こるでしょうか?こうした疑問は、そのようなバランスを崩した原子核を生成しその性質を調べることにより始めて明らかになります。数の組み合わせが2次元になることで、量子多体系の新しい様相がみられることが期待されているのです。

鉄より重い元素は宇宙でどのようにできたのか

さて、バランスを崩した原子核は人工的にしかつくれないというわけではありません。超新星の爆発現象など宇宙では、こうした原子核が多量に生成され、それが反応を繰り返すことによって鉄より重い元素が作られたと理論的には説明されています。この理論に現れてくる原子核は人類がまだ確認したことのないものばかりで、その性質は実験的には全くわかっていないのが実情です。これから数年のうちには、こうした原子核が実験的に生成できるようになり、宇宙の進化や元素創生に関する新たな知見が得られると期待されているのです。

News: テトラ中性子ー中性子4個だけでできた原子核

陽子数と中性子数のバランスが最も崩れた系として、中性子だけでできた原子核を考えることができます。しかし、中性子が2個の系も中性子が3個の系も準安定な状態すらつくらないことが知られています。では中性子が4個の系ーテトラ中性子ーはどうでしょうか。これまで様々な実験的な試みがなされ、およそ15年前にフランスの研究グループがその徴候を間接的にとらえたという報告を行いました。しかし現在の核物理の理解にもとづく理論では、その存在を説明することはできませんでした。私たちはテトラ中性子を実験室内でほとんど止まった状況を実現する新しい手法で実験を行い、準安定な状態(共鳴状態)の候補を見つけることに成功しました。論文UTokyo Research  2016年には検証実験を行い、現在解析を行っています。

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Last-modified: Thu, 23 May 2019 10:55:28 JST (1794d)