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SHARAQビームライン用 低圧動作型ドリフトチェンバーの開発

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概要

我々が行っている不安定核ビームを用いた原子核実験では、粒子の位置を高精度で測定する必要があります。例えば、現在理化学研究所で建設中のSHARAQスペクトロメーターのビームラインにおいては、位置分解能として300μmの要求がなされています。荷電粒子は、物質中を通過する際、物質を構成する原子核とクーロン相互作用によって何度も散乱します。このことを多重散乱と呼びます。一般的なドリフトチェンバーで用いられるガスの圧力は、大気圧です。これでは、物質量が大きく多重散乱が大きいために、位置を高精度で測定することが出来ません。このため、我々は、物質量が小さく、高精度で位置を測定する検出器として、低圧動作型ドリフトチェンバー(Low-pressure Multi-Wire Drift Chamber,LP-MWDC)の開発をしています。

ドリフトチェンバーとは

ドリフトチェンバーは、検出器内に飛来した放射線の軌跡を測定する装置です。放射線は電離作用によってガスをイオンと電子に電離します。電子は、高い電圧が印加された陽極に向かって、電場によって、ほとんど一定の速度で移動(ドリフト)します。電子が陽極に到達すると、電子雪崩(電子がガスを電離して2次電子を生み出し、電離された電子は、また新たな電子を生み出す現象)により、電子の数が増幅します。電子を信号をして取り出します。放射線が検出器を通過した時刻と電子が陽極に到達した時刻の差を測定することで、放射線が通過した位置を求めることができます。ドリフトチェンバーの信号を取り出す電極には、ワイヤーを用いることが多いです。それは、ワイヤーが作る電場はワイヤーの中心からの距離に反比例するため、強い電場を作ることができるからです。

仕様

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 この検出器は、2種類の層で構成されています。ワイヤーの層の挟むようにカソードの電極面があり、3層で1組となっていて、90度回転した組が奧にあります。ワイアーの層はカソード面と同じ電圧が掛かったポテンシャルワイヤーとカソード面から相対的に高電位であるアノードワイヤーで構成されてます。このため、アノードワイヤーから信号を読み出します。正面と奧のカソードはストリップ状になっており、ディレイライン(遅延線)と接続してあります。カソード面では、アノードワイヤーで電子雪崩によって増幅した電子の鏡像電荷が誘起されます。この鏡像電荷をディレイラインを用いて信号として読み出します。この検出器に用いられるガスは、イソブタンです。

特徴

この検出器には、2つの大きな特徴があります。1つ目は、装置が持つ物質量が多重散乱の影響を抑えるため最小限となってます。一般的に、高エネルギー実験や原子核実験で用いられているドリフトチェンバーでは、ガスは大気圧となってます。しかし、私達が位置を精度良く測定を行う際に、多重散乱の影響を十分考慮しなくてはいけません。ガスが大気圧では多重散乱の影響が大きいため、不安定核ビームの軌道が大きく変化してしまいます。これでは、実験においての測定精度に影響を与えてしまいます。私達は、ビームの入射角度を精度良く測定を行うために、ガスの圧力を大気圧の1/10に下げることで物質量を抑えました。

2つ目は、ディレイラインを用いた信号の読み出しを行うことです。この装置は、ワイヤーとストリップ状の電極で構成されたユニークなドリフトチェンバーです。これは、新しい試みです。電極では、接続されたディレイラインを用いて信号を読み出すことが可能となりました。これは、ワイヤーと比べて、信号処理が容易となります。ディレイラインを用いることで、ディレイラインの両端に現れる信号の時間差から位置を求めることができます。今までは、ワイヤーかストリップ状の電極のどちらか一方を用いた検出器はありましたが、今回は両方を用いたハイブリット型です。両方を用いることで、ワイヤーが持つ高い検出効率と計数率と、ディレイラインが持つ信号処理の利便性の2つのメリットを得ることができます。

参考文献

  • A.Saito et al.: CNS Report. 2006 (2007) 67.

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Last-modified: Fri, 09 May 2008 19:33:03 JST (5830d)